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黒姫山と床山 1977年1月
黒姫山がまげを大銀杏に結ってもらいながら新聞を読んでいる。床山は、関取が洗ってきたばかりの髪に、力いっぱい"ピンツケ"をすり込んでいる。床山は、すばやく仕上げねばならない。他の関取衆も待っているからだ。しかし、この床山は経験豊かな職人で、見事なまげをせっせと結いあげながら、関取の手の新聞を読む余裕すら持っている。
黒姫山の横にいるのは、魁輝で、その左後ろが荒勢だ。黒姫山の両手を注意してご覧になれば、両手とも薬指が小指の方に曲がっているのがおわかりになるだろう。これはお相撲さんを細かく注意しながら写生していくことで気がついた、お相撲さんに多い特徴のひとつで、激しい訓練によるものだ。
状態 良好
版上サインあり
その他の出品はこちら
http://openuser.auctions./jp/user/nuchie_jp?alocale=0jp&mode=1
作家略歴
松岡リン リン・松岡
リン・スターム・レビィ
Lynn Sturm Levy
リン松岡(Lynn Matsuoka)
1946年ニューヨーク生まれ。テンプル大学タイラー芸術学科で学び、1969年にフリーのコマーシャルアーチストとしてスタートする傍ら、視覚芸術学校でジャックポッタに師事。全米の著名雑誌やTVネットワークの仕事で、ニューヨークからフロリダ、カリフォルニアと移り、最後に東京に来て相撲を見い出した。1974年から相撲を学び、描くようになり、1980年の日本相撲協会のカレンダーは彼女の作品でつくられ、豪華画集「相撲の世界」も発刊。大相撲のポスターも手がける。現在ニューヨークにてスポーツや音楽をテーマとした作品を制作。彼女が描いた相撲作品は、相撲の歴史の記録としても貴重なものである。
作家サイト
https://hamptonsartist.com
著者「鬢付の匂い―相撲とわたし」
NHKアーカイブス「知られざる北の湖~昭和の大横綱 その素顔」
https://youtu.be/1up1T6r8nM8
1時間16分あたりに紹介されています。
私は1973年に、ある大会社の招待で日本にきた。当時の私には、日本や日本人について何の知識もなかったので、非常な苦労があった。6か月たって私が感じたのは、ただ国へ帰りたいということだけだった。
この日本という国と私の間には、抜き難い壁があるように思われた。そんな時、舟橋聖一氏の親切な紹介で、いろいろと相撲社会に接することがあり、相撲の稽古を見て、近くで写生する機会を持った。この経験は、友人の亡きイヴァンモリスが、日本に行けばそうなるだろうと予言したように、私の人生の転機となったように思う。相撲は私にとって、どこか神秘的で、ロマンチックで、まだわからないところがあるが、相撲の稽古のある朝ならいつでも、場所が開かれている日ならいつでも、見逃さないようにと私を惹きつける何かがあった。
最初の数年間、私はただ,"タタミ“に坐って見
守り、絵を描こうとするだけだった-なぜなら
私は、言葉がわからなかったので、見えるものを手に入れる以外になかったからだ。これはかえって、会話にまどわされないで、非常に良く見ることが出来たという点で幸運だった。もちろん、言葉の通じないことは、何かにつけて不便だった。話しかけて、相撲界の人々を理解することから、私を妨げたからだ。
私はいつも、みんなに尊敬の念を抱いてきた。彼らみんな、"お相撲さん“ はもちろん"親方“"行司“"呼出し“にもだ。私はいつも正しいことをしようと思ったのだが、私には何が正しいことなのかわからなかった。それでずいぶん、 "トンマ“なことをやらかした。幸運なことに、時々、親切な親方とか相撲取、行司とか呼出し、時には部屋頭が、私が悲嘆にくれているのを見て、進んで助けの手を差しのべてくれた。
相撲の世界は、輝かしい土俵や、相撲取の雄大な姿をはるかに超えたものなのである。それはうきうきした心と打ちひしがれた心、文字通りの悲劇と喜劇、人間の限界ぎりぎりまでの忍耐、誕生と死を包含する人生だ。古い仕来りが支配している世界だが、その周縁を、現代世界がむしばみつつある・・・。
相撲は私に、偉大な仕事と人生への愛をもたらしてくれた。どこかもわからないような片田舎の巡業先の土俵のそばに、凍り付いたように坐り込んで私は、もうこのまま死んでもいいと感じたことが何度かあった。
とても名状し難い美しさと芸術的な満足感が、私の人生を包んでいた。それは相撲が、これ以上何も必要としない程に満ち足りたものだからだった。私がそばにいることを大
目に見てくれ、時には実際に私に援助してくれたりし、私の人生に意義を与えてくれたこの相撲界の、あるいはその周囲の、すべての親切な人々に私は、感謝の印として、何かすばらしいことをしたいと願っている。
私は初心者、彼等の言う "タマゴ“のような感
じでいる。私はこれからもこの仕事を続けて、多くの人々にとって価値ある仕事が出来るまで、努力を積み重ねていきたいと願っている。
特別なる感謝を、ベースボールマガジン社社長、池田恒雄氏に捧げたい。この画集は氏の案から生まれたものである。
リンスタームレビィ
1980年7月 ニューヨーク市にて